第54章 いいから、ここにいろ

 会社に戻った福田祐衣は、井上颯人が狂ったように車を蹴りつけた挙句、怒りに満ちた表情で車に乗り込み去っていくの遠目に確認し、ようやく安堵の息を吐いた。

 一度張り付いたら剥がれない、たちの悪い粘着テープのような男だ。

 福田祐衣は心底うんざりしながら、奴が完全に立ち去ったのを見届けてから最上階へと向かうエレベーターに乗った。

「宮本社長」

 ドアを開けて中に入ると、宮本陽叶が天井まである大きな窓の前に立っていた。

 彫刻のように整った横顔。高く通った鼻筋に、硬く引き締まった顎のライン。その淡白で静かな瞳は、窓の外の景色をただじっと見つめている。

 仕立ての良い漆黒のスーツが、彼の...

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